2012年6月13日水曜日

ネパールの田舎で広まる悲しい病気


田舎

ネパール保健省のNepal Country Progress Report 2012年によると、現在ネパールのHIV感染者は52,000人に及ぶ。
(ちなみに日本では2011年3月の時点でHIV感染者12,866人、エイズ患者5,900人の合計18,766人である)

2009年には63,528人が感染者であると見積もられていたので、ネパール政府の努力と諸外国からのたゆまない援助が功を奏しているのがよくわかる。しかし、未だエイズ感染者が都市だけでなくネパール中にたくさん居るのはなぜだろう? 事実、感染者は田舎に沢山居るのだ。

その理由を国連の報告から知る事ができる。その報告によると感染者の41%は出稼ぎ労働者。(ネパール保健省に寄ると27%)つまり、海外でHIVに感染した人が毎年新しい感染源として帰国し、その多くが地方に帰って行くのだ。

地方は現金収入に結びつく仕事が少なく、毎年200万以上の人たち(おもに男性)が海外に長期、短期の出稼ぎに行く。渡航先はインド、ドゥバイ、マレーシアなど様々だ。

ルクムと言うネパール中西部に住むダネシュと言う男性は、7年インドのムンバイで出稼ぎをした。経済的な力を付けて帰国し、妻と小さな娘と一緒に生活する夢を暖めて帰国したダネシュは現金だけでなく、治癒困難なエイズも一緒にネパールの山奥ルクムに持って帰って来た。

29歳の妻パルティバは、「夫はこの前のダサインの時に死にました」、「最初何が起きたのか、わけが分からなかった。お金を稼ぎに外国に行った夫があんなに恐ろしい病気に成っていたなんて...」。パルティバはダネシュからウイルス感染した。9歳の娘も感染した。親族は(感染を恐れて)パルティバの手を触ろうともしない。「大黒柱の夫が死んだ後、家族全体が苦境の底に落とされてしまいました」とパルティバは付け加えた。(The Himalayan Timesからの引用)

ダネシュの家族のような悲劇を減らすべく、ネパールでは誠実な努力が実行されて来た。多くの保健関連機関が押し進めているのは”安全なセックス”の教育である。そして、国内での職の確保,感染者への偏見を無くす事にも積極的に取り組んでいる。

興味深い事に家族に対する”背信行動”そのものを防ぐなど道徳の教育にはあまり重きが置かれていない。つまり、エイズに成らなければ、何をやっても良いのだ。

家族の愛や団結がしばしば強調されるネパールの社会で、配偶者以外と関係を持つ事にそれほど違和感や罪の意識を感じない人が居るのはなぜなんでしょうか? その理由をカトマンズ生まれ生粋のネワール人のアムリットが説明してくれた。


出稼ぎ労働者がパスポートを申請するパスポートセンター

以下、アムリットの話し。
「もちろん、結婚外の関係を良い事と思っている人はあまり居ないと思うけど、ヒンドゥーの教えではその事に関して厳しく律していないんです。事実、インドラやクリシュナと言うヒンドゥーの神は好色で、クリシュナなどは数えきれない程の妻がいると知られているんです。神様が好き放題やっているんだから、人間がそれに見倣ってもあまり不思議は無いでしょう」

彼はさらに、「ネパールでは妻が夫の情事に口出しできないと感じている人が居ると思います。これもヒンドゥーダルマの影響かも知れません。例えば有名な神話ラーマヤーナでラーム(ビシュヌの化身)の妻シータ(ラクシミの化身)がスリランカの魔王に誘拐されます。最終的にラームはシータを取り返す事に成功するのです。でも、シータの貞潔を疑い王宮から追放してしまうと言う話しです。この話しは、夫には妻の道徳に口を挟む権利あり、女性には無いと言うような考えを人々の心に植え込んだのかもしれません」

つまり、海外で働いている旦那がどんな道徳規準で生活しているかなど、妻が疑ったり口を挟むことではないのです。

なるほど、アムリットは控えめに個人的な意見を話してくれたのだが、妙に納得させられてしまいました。

クリシュナ、ビシュヌ、インドラはネパール人の中で人気の高い神様達だ、子供や店の名前にそれらの神々の名前を付ける人も沢山居る。国民的アイドルの神様はネパールの役割モデルなのかもしれません。


理由は何であれ、一見外の世界と無縁のような美しいネパールの田舎。そこにも悲しすぎる病気、エイズが容赦なく襲って来ているのは事実のようです。